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2012年10月5日金曜日
毎月分配型投信の購入と保有の理由を行動ファイナンスの観点から考える
日経(2011/10/18)の「心理学で分析する「毎月分配型投信」の人気 編集委員・田村正之」では、日本で毎月分配型の投資信託が人気を集めている背景を、行動ファイナンスの観点から解説をしています。
長期運用の基本は、利益が出た場合はそれを元本に加えていくことで雪だるま式に資産を膨らませる「複利効果」を狙うことで資産を殖やしていくことです。一方で、毎月分配型は利益が出た都度でお金を引き出してしまうので複利効果が働きにくいし、分配のたびに課税されるので課税時期が早まり(分配金を再投資する場合には)税制的にも不利となります。そのため、経済合理性でいえば、長期運用では毎月分配型は合理的ではないと多くの専門家が指摘するところです。
(参考)マネーの知恵(仮)2011/1/8 単利 複利 現在価値 について(ファイナンスの基本)
複利で資産形成を狙わずに、例えば、高齢者が年金代わりに受け取る場合などは便利な側面はあります。資産形成世代で毎月分配型投信を買っている人も多いのですが、自分の心理状態が行動経済学の考え方に当てはまっているかどうか、その結果、非合理な行動になっていないか考えてみることはなかなか意義があると言えます。
記事では、双曲割引、代表性のヒューリスティック、プロスペクト理論、心の会計という概念から毎月分配型にハマる人間心理が解説されています。
○双曲割引
・人間には将来の大きな利益よりも、確実に手に入る「目先の利益」を過大に考える傾向がある
・1年後に100円をもらうか、1年と1週間後に120円をもらうか聞かれると『どうせ1年も先だし、さらに1週間待ってもいい』と1年と1週間後の120円を選ぶ人が、『今日もらう100円か、1週間後の120円か』と聞かれると、今日の100円を選ぶ傾向がある。つまり目先の嬉しいことの満足感は、過剰に大きく見えてしまう。目の前のおやつがとてもおいしそうに感じられて、長期的には望ましいはずのダイエットに失敗しがちなこともよくこの考え方で説明される
(*分配金が毎月入ってくることが嬉しいので、分配金を再投資して運用し、将来より大きな利益を得ることよりも優先され目の前の利益を受け取ってしまうという効果が説明されています。)
○代表性のヒューリスティック
・「人気のある金融商品はよい商品」などと、物事をイメージなどで簡便に判断すること。しかしそれは単に思い込みに過ぎないこともある。例えば安定的に分配金が出ていると、運用そのものも好調だと思い込んでしまう。実際には、例えば外債投信全体で集計すると、2008年から2011年7月末までの分配金総額の98%は単に自分の払ったお金(元本)の払い戻しだったというデータがある(日経2011/9/6「外債投信「分配金の98%が元本払い戻し」も」)。円高で元本部分が値下がりしていたのに分配金が出ていた結果、多くの投信で元本の取り崩しによる分配がされていた。
・「人気のある金融商品はよい商品」という考えは、家電や自動車の場合ではある程度成り立つことなので、金融商品も同じだと思い込んでしまうことが、代表性のヒューリスティックの一種。金融商品では、実際は『売れている=旬のテーマなので既にみんなが買っていて高値づかみになりがち』、『分配金が高いからお得ですよ、というふうにセールスがしやすい』といった要因が大きかったりする
(*「お勧めですよ」と言われ実際に売れていると安心してしまう効果が説明されています。「何が良いのか自分では分からないから、お勧めされていて他の人も買っているらしいから安心という心理が働きます。金融取引においてはお勧め出来ない考えなのですが。。。)
○プロスペクト理論
・毎月分配型投信で基準価格がマイナスになったまま塩漬けにしている人の行動
・人間の『満足』と『苦痛』を表す効用曲線という概念で説明される。同じ額の利益や損失だと、満足より苦痛の方が2倍強も大きく感じがち
・金融商品に『元本確保型』と名付けると売れ行きが伸びる背景でもある
・分配金は自分の資産から払われるものなので、分配金を出した分だけ、残った資産の価値を示す基準価格は下がる。実際に稼いだ分よりたくさん分配金を出しているケースも多いので、分配型投信は分配がなかった場合に比べて基準価格はマイナスになりやすい。例えば『マイナス』の状態にあるとき、もしも成績が改善してゼロやプラスの方向に動いた場合の満足感の向上は劇的なのに、逆にマイナスからさらに大きなマイナスへ動いても苦痛の増え方は緩やかになるという心理が働く
・いったん損をしている状態になると、さらに損が増えるというリスクに対して鈍感になってしまい、そのまま放置しがちになる
○心の会計
・お金の価値は本来同じはずなのに、「基準価格」と「分配金」は別のものと区別して考えてしまう
・例えば基準価格が下がっていることはあまり考えない一方、分配金は一種のおまけのように感じて喜んでしまう
(*基準価格=元本+分配金ですが、分配金が手に入れば嬉しくなり、分配金により基準価格が下がっても、解約しない限り資産の目減りは実感せずに済むという心理です。)
(*また、販売員から説明はされてもきちんと理解をしておらず、分配金は利益から出ていて元本の取り崩しがされているとは思っていないという人も多いのではないかと思われます。2012年からは、金融庁の指導で、運用報告書で特別分配金が「元本払戻金」という記載になっていますが、運用報告書をきちんと見ている人もどれだけいるのかという話はありそうです)
山崎元さんは「行動経済学は、本来は投資家側こそが、賢い資産形成のために勉強し、活用すべきものだ」と語っているそうです。
現代ビジネス(2012/2/8)の記事「さよなら、通貨選択型投信!」では、「理論の「悪用」といっても過言ではないが、経済に関する理論を儲けにつなげるという意味では、稀なくらいの成功例」と指摘しています。
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