NYダウのシカゴ・オプション取引所が作り出した「ボラティリティ・インデックス」の略称をVIX指数としてよく使用されています。ボラティリティの上昇は投資家がマーケットの行方が読めず恐れを感じている時であることから、「恐怖指数」とも呼ばれます。
日経平均では日経VIという指数が使われます。
2015年8月24日からのマーケットの変動時もボラティリティは急上昇しました。
三菱IFJモルガン・スタンレー証券のシニア投資ストラテジスト・藤戸則弘氏の「藤戸レポート」(2015/08/31 急落相場のパターン分析と対処法)では、ボラティリティ・インデックスの分析とレポート前週のマーケット急落と見通しがされています。
レポートのリンク:
http://www.sc.mufg.jp/report/fj_report/pdf/fj20150831.pdf
ボラティリティ(VIX、VI)の急上昇は、投資のチャンスか?金融危機の始まりか!?
・NYダウとVIX指数
2008年以降でVIX指数が40%超の局面は下記の4回です。(解説は藤戸レポートを参考に掲載)
(図は藤戸レポート p2より)
① リーマン・ショック
2008年10/24に89.5%。
リーマン・ブラザーズの倒産に伴い、住宅・クレジットバブルの崩壊で、世界が大恐慌に沈むとの恐怖で投資家が狼狽。90%近いVIは史上最高、混乱の極にあった。
ダウ平均は、2008年5/19高値13,136ドルから11/21安値7,449ドルで▲43.2%の下落。その後2009年1/6高値9,088ドルまで+22%の戻りを見せるが、実体経済の落ち込みを反映して同年3/6安値6,469ドルまで▲28.8%の反落。壮烈な「二段下げ」となる。
② ギリシャ・ショック
2010年5/21に48.2%。
政権交代により、ギリシャ政府の財政関連指標が粉飾だったことが発覚。
第一次ギリシャ・ショックであり、ユーロ圏離脱が真剣に論じられた。ダウ平均は、2010年4/26高値11,258ドルから同年7/2安値9,614ドルまで▲14.6%下落。夏場は低水準の揉み合いとなったが、9月中旬以降に上昇トレンドに回帰。
③ ユーロ危機
2011年8/8に48.0%。
ギリシャに端を発した債務問題がスペイン、イタリア等の重債務国にまで波及し、通貨ユーロの崩壊が懸念された。
ダウ平均は、2011年5/2高値12,876ドルから同年10/4安値10,404ドルまで▲19.1%の下落。ECB(欧州中銀)の懸命な政策対応もあって、年末頃から上昇傾向に転じた。
④ チャイナ・リスク
今回2015年の53.2%。
ユーロ危機以降、比較的平穏な株高時代が続いたが、約4年ぶりの大変動。
・日経平均と日経平均のボラティリティ・インデックス(VI)
日経平均は2008年以降で過去6回のVI40%超の局面があります。(解説は藤戸レポートを参考に掲載)
NYダウのVIX指数40%超えの4回と、東日本大震災(2011年)、バーナンキ・ショック(2013年)が加わります。
(図は藤戸レポート p3より)
① リーマン・ショック
日経平均のVIは2008年10/31に92.0%(史上最高)
日経平均は2008年6/6高値14,601円から10/28安値6,994円まで▲52.0%の急落。2005年に始まった「小泉構造改革相場」が2007年2月に高値を付けて調整過程にあっただけに、ネガティブ・インパクトは大きくなった。米ダウと同様に、11/5高値9,521円・+36.1%や2009年1/7高値9,325円・+33.3%まで戻す局面もあった。しかし、世界同時株安に巻き込まれ、2009年3/10安値7,021円まで売り込まれた。
② ギリシャ・ショック
VIは2010年5/21高値44.0%
欧州株安→米株安→日本株安の連鎖による。
日経平均は、2010年4/5高値11,408円から9/1安値8,796円まで▲22.8%の下落。日本固有の要因ではなく、海外の悪影響に巻き込まれるパターンが続いた。
③ 東日本大震災
天災でVIが3/15に69.8%まで急騰した稀有なケース。リーマン・ショックに次ぐ高いレベル。
日経平均は、2/17高値10,891円から3/15安値8,227円まで▲24.4%の下落。VIのピークと株価の安値がピタリ一致した珍しいパターンだ。経済・金融情勢が材料の場合は、波状的に安値を形成することが多いが、天災はまさに瞬間で相場が織り込んでしまった。その後、7/8高値10,207円まで+24.0%のリバウンドを見せた。
④ ユーロ危機
VIは2011年8/9に42.6%。
震災の影響に加えてユーロ危機が株価を圧迫。さらに、タイ大洪水により日本企業のサプライ・チェーンが崩壊。
日経平均は同年11/25安値8,540円まで売り込まれた。7月高値からは▲16.3%の下落。
この2011年は、日本株相場にとってツキがなかった最たる例。
⑤ バーナンキ・ショック
2013年5/23に48.3%。
藤戸氏によると、注目すべきは、米VIX指数が6/24の21.9%に留まっていること。また、高値奪回には、約半年を要したことになる。このバーナンキ・ショックのパターンは参考になることが多いとしています。
5/23時点ではザラ場高値15.1%に過ぎない。つまり、FRB(連邦準備制度理事会)のテーパリング(量的緩和政策の段階的縮小)は、新興国や日本に大きな衝撃を与えたけれども、米国にとっては軽微であったことが分かる。記憶に新しいが、日経平均は5/23高値15,942円をマークした後に急落し、1日で1,143円安となった。急落を契機に、6/13安値12,415円まで▲22.1%の下落である。その後、低水準の往来が続いた後に、8/28安値13,188円で二番底を形成し、大納会高値16,320円まで上昇トレンドを描いた。
⑥ チャイナ・リスク
今回、2015年8月26日の48.9。
VIX、VIといったボラティリティ・インデックスが40%超となる場合は、明らかなオーバー・ショートを示唆しています。
投資の観点から見た場合には、このVIX、VIの40%超は、買いのチャンスと捉えることもできます。
ただし、藤戸レポートによると、VIX、VIのピークと株価のボトムが一致するケースは、意外に少ないと分析されています。
むしろ、40%超から大乱高下相場が続くことを考えた方が良いとのことで、株価の大底は、波乱相場の中で1~2か月後に訪れるケースが少なくないとしています。
そして、その悪材料によって実体経済や金融システムが大きなダメージを受ける場合には、リーマン・ショック時のように壮烈な二段下げに移行する場合もある。逆に、2013年バーナンキ・ショックのように、日本の実体経済が回復モメンタムを維持している場合には、高値奪回の可能性も十分あると分析されています。
藤戸レポートは、「現時点では、前者よりも後者の可能性が高いように思える」と判断を示しています。
結論としては、レポートでは「VI、バリュエーション、オシレーター、市場の狼狽ぶりを見ると、日経平均の17,000円台は買いの好機」としています。
*今回の藤戸レポートのボラティリティ・インデックスの観点からの過去のケースも踏まえた分析は非常に参考になります。
ボラティリティ・インデックスが40%を超えるような上昇は大よそ1~2年に一度という頻度であり、冷静にマーケット変動の要因を分析し、どのように対処をしていくかが大きく投資成績にインパクトを与える局面とも言えます。
マネーの知恵(仮)関連記事:
・2015/8/25 日経平均下落や世界同時株安に長期投資家はどう対処すべきか
http://money-learn.seesaa.net/article/424782159.html
・2015/9/5 MUMS藤戸氏の日経平均予測(マネーの羅針盤) 「下がった時に弱気になっていては株式投資は儲からない」
http://money-learn.seesaa.net/article/425402299.html