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2015年12月30日水曜日

金融庁での会計監査の在り方に関する懇談会 会計不正は撲滅できるのか?

東芝の不正会計では、財務諸表の適正性を担保する立場の監査法人へ厳しい目が向けられました。
金融庁では、会計監査の在り方に関する懇談会というのが開かれ、本質的な会計監査のあり方についての議論がされています。
公認会計士や監査法人にとっては、かなり手厳しい見解も多く述べられていますが、議論の行方がどのようになっていくのかが注目されます。

金融庁 会計監査の在り方に関する懇談会(第1回)議事要旨
平成27年10月6日
・まずは質問がある。製造業などにおける製造委託先に対する部品の有償支給に関して、売上が原価に対して何倍にもなっている取引がある場合に、監査人から何も指摘がないということがなぜ起こるのかがよく分からない。監査人の判断の基準について少し伺いたい。
・内部統制に関して言うと、会社が組織ぐるみで不正を行うと、会計監査では全く分からないと言われるが、分からないはずがない。工事進行基準にしても、在庫の評価にしても、全てリスク・アプローチで想定される伝統的な論点で、内部統制で全く分からなかったということが平然と言われること自体が大問題であると思っている。
・工事進行基準に関して言えば、工事1つ1つがどんな状況であるかについて、会社の中の工程会議等で刻々議論・報告されているわけであり、これが会計監査で分からないというのであれば、もう会計監査を全てやめたらいいのではないかと思うほどである。
・会計不正があると、監査人の監査のやり方に全てフォーカスが向いてしまう傾向があるが、巨大な企業を監査していて、内部統制にも依拠しているわけであるから、正しい決算書を世の中に出すということは、会計監査人だけが使命としてやらなくてはならないことではなく、もちろん財務諸表をつくる企業もそうであるし、企業の中で様々な活動を監視する監査役も重要な役割を果たすであろうし、株主・投資家の眼も大事だと思う。
・特に日本の現行の会計士試験制度は誰でも受験できるような制度になっており、十代の合格者も出てきている。そのような試験に強い若者を否定するわけではないが、やはりきちんとした教養やビジネス感覚があり、一定の社会常識を備えていなければ、企業のミドルレベル以上の方達と丁々発止の議論はできない。特に経営トップの方とそれなりの議論を重ねていくためには、年齢だけではないと思うが、それなりの知見と知識がなければ相手にしてもらえないのではないか。財務、経理を担当される上場会社の方々の中には、非常に優秀な方がおられる。少し言葉は悪いが、そういった方々が、5、6年程度の経験の会計士を手玉にとるのは簡単なことではないかという気がする。
・現在、ITを駆使した取引の全件チェックといった手法について検討が進められているところであり、国際監査基準ではまだそういったものは出ていないのでかなり踏み込んだ議論にはなるが、こうした手法も検討しなければならない環境になってきているのではないか。この懇談会でも環境の変化に対応する監査とはどういうものなのかというところに知恵を出していきたいと思う。
・監査の現場についてお話したいが、基準がかなり飽和状態になっている、あるいは何か事故があると要求事項がどんどん積み重ねられていくということで、手続的に増えているのが実態だと思う。特に期末の監査の手続が増大している中、決められた決算期間の中で監査を終えるのが普通の対応であるので、期末の監査に相当の負荷がかかっているということになると思う。この監査の環境についても、是非議論していただきたいと考えている。
・関与会計士の力量はものすごく大事だと思う。要は、市場を守る責務をきちんと果たせるのかどうかというのが一番大きなところである。何か問題があったときには不適正意見を書かなければならないということではあるが、そういう力量のある会計士が少なくなっているのではないのかという疑問が今、持たれているわけであり、これにどう対応したらいいのか。単に公認会計士を総入替えすればいいという話ではないので、どうしたらいいのかというのが1つあるのだと思う。
・会計不正を監査で発見できなかった事例があったためこのような議論をしているわけだが、実際には、監査をしているときに不正を発見した、あるいは、不正でなくても、会計処理の間違いに気が付いて経営者を説得し、正しい財務諸表を世の中に出したという例はある。確か公認会計士協会で調査をして、1,000人ぐらいの会計士に聞いたところ、過去10年に2回ぐらいはそういったことに遭遇しているとのことである。そういった意味で会計監査が機能している面もやはりあるとは思う。
・監査について、投資家はきちんとやっていて当然だと思っている。投資家からみると監査の具体的な中身がよく分からない中で、専門的な視点のみから改善したと言われても納得し難い面もあるかもしれない。是非外部からも分かるような方策についても議論していただきたいと考えている。

東芝不正会計で新日本有限責任監査法人に契約の新規の締結に関する業務の停止3ヶ月と業務改善命令

東芝の会計不正事件では、金融庁より、大手監査法人の一角である新日本有限責任監査法人に契約の新規の締結に関する業務の停止3ヶ月と業務改善命令という厳しい措置が取られました。

東芝の監査のプロセスについてのみならず、法人運営が著しく不当であるという評価が下されました。

金融庁 2015/12/22
監査法人及び公認会計士の懲戒処分等について
(1)処分の対象者 新日本有限責任監査法人
(2)処分の内容
・契約の新規の締結に関する業務の停止 3月
(平成28年1月1日から同年3月31日まで)
・業務改善命令(業務管理体制の改善。詳細は下記4参照)
※併せて、同日、約21億円の課徴金納付命令に係る審判手続開始を決定
(3)処分理由
ア 東芝の平成22年3月期、平成24年3月期及び平成25年3月期における財務書類の監査において、7名の公認会計士が、相当の注意を怠り、重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽のないものとして証明した。
イ 当監査法人の運営が著しく不当と認められた。
事案の概要
(1)東芝の財務書類に対する虚偽証明
監査チームのメンバー構成が、長期間にわたり東芝や東芝の子会社の監査を担当した者が中心となっていることなどにより、東芝のガバナンスへの過信が生じ、東芝側の説明や提出資料に対して、批判的な観点からの検証が十分に実施できなかった
背景事情 下記アからウに記載した事実などが認められた
ア パソコン事業
~ 監査の担当者は、毎四半期末月の製造利益が他月に比べ大きくなっている状況や四半期末月の製造原価がマイナスとなる異常値を認識するとともに、その理由を東芝に確認し、「部品メーカーからの多額のキャッシュバック」があったためとの回答を受けていたが、監査調書に記載するのみで、それ以上にチーム内で情報共有をしていなかった。~
イ 半導体事業
~ 前工程の原価差額を減額した場合は、後工程の原価差額について同額の増額が行われるべきところ、東芝はこれを行っていなかったが、監査チームは、前工程における原価差額の減額が行われていたことを監査手続において認識しながら、後工程における原価差額の増額が行われているかを、十分かつ適切な監査証拠を入手し裏付けをもって確認する必要があるにもかかわらず、後工程における原価差額の増額は当然に行われていると勝手に思い込み、その確認を怠った。 ~
ウ 工事進行基準適用事案
~ 東芝の説明を鵜呑みにし、また、東芝から提出された発番票などの資料を確認するにとどまり、見積工事原価総額の内訳などについて、詳細な説明や資料の提出を受けておらず、経営者が使用した重要な仮定の合理性や見積りの不確実性の検討過程を評価していないなど、当然行うべき、特別な検討を必要とするリスクに対応した十分かつ適切な監査証拠の入手ができていなかった。
(2)当監査法人の運営
当監査法人の運営が著しく不当なものと認められた。
ア 品質管理本部及び各事業部等においては、原因分析を踏まえた改善策の周知徹底を図っていないことに加え、改善状況の適切性や実効性を検証する態勢を構築していない。そのため、社員及び監査補助者のうちには、監査で果たすべき責任や役割を十分に自覚せず、審査会検査等で指摘された事項を改善できていない者がいる。また、下記エにみられるように審査態勢も十分に機能していない。
イ 定期的な検証及び期中レビューにより、全ての監査の品質を一定水準以上に向上できているかを検証することとしている。しかしながら、これらの手段を組み合わせて用いても、早急に改善を要する監査業務や監査手続への適時な対応となっていないなど、実効性のあるモニタリングを実施する態勢を構築していない。また、定期的な検証において、監査手続の不備として指摘すべき事項を監査調書上の形式的な不備として指摘している。そのため、監査チームは指摘の趣旨を理解しておらず、審査会検査等で繰り返し指摘されている分析的実証手続等の不備について、改善対応ができていない。
ウ 識別されたリスクに対応した監査手続が策定されていないなどリスク・アプローチに基づく監査計画の立案が不十分であり、重要な会計上の見積りの監査における被監査会社が用いた仮定及び判断について遡及的に検討をしていないほか、被監査会社の行った見積り方法の変更や事業計画の合理性について批判的に検討しておらず、分析的実証手続の不備が改善されていないなど、これまでの審査会検査等で繰り返し指摘されてきた監査手続の重要な不備が依然として認められる。加えて、重要な勘定において多額の異常値を把握しているにもかかわらず、監査の基準で求められている実証手続が未実施であり、また、経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続として実施した仕訳テストにおいて抽出した仕訳の妥当性が未検討であるなど、リスクの高い項目に係る監査手続に重要な不備が認められる。
エ 審査担当社員が、監査チームから提出された審査資料に基づき審査を実施するのみで、監査チームが行った重要な判断を客観的に評価していない。

これを受け、日本公認会計士協会は下記の声明を出しています。

日本公認会計士協会 2015/12/22
会長声明「公認会計士監査の信頼回復に向けて」
(内容要旨)
・監査法人による監査の実施を巡って発生した今回の事態は、我が国の資本市場及び公認会計士監査に対する信頼を著しく損なうものであり、その社会的影響からしても極めて遺憾である。
・今回の事態を公認会計士監査全体への信頼が問われているものとして捉え、一人ひとりが原点に立ち戻り、公認会計士法が規定する公認会計士の使命及び職責を自覚し、真摯に監査業務に取り組むことが必要である。
・監査の実施に当たっては、特に、内部統制を含む企業及び企業環境を十分に理解し適切な対応を行っているか、職業的懐疑心を十分に保持し状況に応じ発揮し・高めるとともに、状況の変化等に対応して適宜監査計画を修正しているか、経営者との有効なコミュニケーションを実施しているか、監査役等との連携を強化すべく双方向の有効なコミュニケーションを実施しているか、また、監査チームにおいては十分な討議と知識等の共有が図られメンバーがそれぞれの役割を果たしているかを改めて確認し、コーポレートガバナンス・コードが謳う高品質な監査の実施とこれを実現するための十分な監査時間を確保することを要請する。
・経営者による内部統制の無効化や共謀により内部統制が機能しない場合があることに十分に留意するとともに、内部統制監査においては、内部統制基準・実施基準や実務指針を形式的に適用するのではなく、制度の趣旨に沿った実質的な適用ができているか、今一度確認することを要請する。

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